第四章 笑えよ、坊…じゃないと俺は……

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 仕事が終わると亮次は傘を掴み、慌ただしく雨のなかへと飛び出した。バイクは置いていくことにした。帰りに事故でも起こしたら坊のもとに帰れなくなる。  最寄りのバス停からバスに乗り、激しい雨に視界を奪われる窓の外を睨みながらようやく自宅近くに辿り着くと、亮次は大量の水が流れる道路を、バシャバシャと音を立てながら駆け抜けた。  アパートに着くと門の傍に見慣れない車が停まっていて亮次は一瞬見咎める。シルバーのスタイリッシュなその車は、イギリスの高級車だ。めったに見る車じゃない。安アパートの前に停まっているのは相当に違和感があった。  中に人がいるようだったが、激しい雨のせいで判然としなかった。気にはなったが今は坊のことだ。  慌ただしく玄関の鍵を開けたが、坊はいつものように亮次を待ってはいなかった。 「坊? 帰ったぞ」  亮次は不安を覚えながら濡れた靴と靴下を玄関で脱ぎ捨て、部屋の中に入る。だが室内は暗く、坊の姿も見えなかった。
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