第四章 笑えよ、坊…じゃないと俺は……

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 坊の一途さを知っていたのに、不用意な言葉で坊を危険に晒してしまった。もう少し遅かったら坊は凍えて死んでいたかもしれない。享一の時とまた同じことを繰り返すところだった。 「くそッ……!」  情けなくて涙が出て来る。 「おまえだって、代わりがきかないんだぞ!!」  叱るように言いながら、それと同時に、花だけを懸命に守り、自分に傘をさしかけることすら思いつけない坊を、たまらなく愛おしいと思ってしまう。  それこそ、命を懸けて守りたいと思うほどに。  坊は必死に涙を堪える亮次を、不安そうに見ていた。自分はなにか失敗したのだろうか、そんな風に考えて怯えているようにも見える。  そんな坊もたまらなく愛おしかったが、亮次が見たいのはそんな顔ではないのだ。 「笑えよ、坊。……笑ってくれ、じゃないと俺は……」  また切なさが強くこみ上げて来て、亮次は坊の柔らかい頬を両手で挟み込むと、そっと引き上げて笑い方を教えようとする。  けれどされるがままの坊は、口許だけ笑ったようなおかしな顔で、いつまでも亮次をじっと見つめているだけだった。
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