第四章 笑えよ、坊…じゃないと俺は……

6/15
227人が本棚に入れています
本棚に追加
/101ページ
 翌日はすっかり雨も止んでいた。坊も熱を出したりはせず、亮次はホッとして、仕事に行く準備をした。  坊に今日一日は部屋で暖かくしているようにと言い置いて、亮次は部屋を出た。  玄関を出た所で、ふとあの不審な車のことを思い出す。最近はほとんどつけられている気配も感じなくなってはいたが、坊が大切になればなるほど、亮次の不安は大きくなっていく。  いつか誰かが坊をさらいに来るんじゃないかと思うと、亮次は胸の奥が変な風に捩れるような気がした。    それは、その晩、いつものように二人で風呂に入っているときのことだった。  坊の肩や背中を洗ってやり、シャワーで泡を流そうとしたとき、坊が床のぬめりに足を取られて転びそうになった。慌てて亮次がその身体を受けとめたとき、思いがけず二人の顔が近づき、一瞬ドキリとする。  亮次に腰を支えられながら熱心に亮次を見つめる坊の可愛い顔を見ていたら、衝動的にそのおでこにキスをしていた。  坊がビクンと震え、身体を強張らせたのがはっきりと判った。それからひどく落ち着かない様子で身体をよじり、亮次の腕から逃れようとする。
/101ページ

最初のコメントを投稿しよう!