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その週末、亮次が仕事を終えて帰宅すると、美里がキッチンで料理をしているところだった。坊が熱を出した日以来、美里には合鍵を渡している。
「おかえりー、坊がお待ちかねだよー」
美里が教えるまでもなく、坊はすでに玄関まで来て、亮次を出迎えてくれている。
だがその様子は少しぎこちなかった。先日の風呂場でのことが原因に違いなかった。
坊だけでなく、亮次もあの夜以来、坊の顔を見るだけで何か胸の中心が疼くような、身体が熱を持つような、おかしな具合になってしまう。
だが美里にそんなことを悟られるわけにはいかず、亮次はいつもほど坊に触れることも、目を合わせることもしなかった。
だから亮次は気が付かなかったのだ。坊が不安そうな目をしていたことに。
その日、四月十二日は享一の誕生日だった。
美里はお祝いのために、ささやかなまるいケーキを買ってきていた。ロウソクも享一の名前もなかったが、HAPPY BIRTHDAY!! という賑やかな文字が入っている。
美里は多くを語らなかったが、享一を今でも愛していることは判った。
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