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亮次も美里と向かい合うように座り、少し沈黙してから、享一が死んだ日のことを話した。ずっと優秀な兄を妬んでいたこと、家に居場所がないと感じていたこと、自分が兄を独りにしたために、兄が死んだこと、全てを包み隠さずに伝えた。
美里は途中からぽろぽろと涙を零した。それを見て、やはり言うべきではなかったのかもしれない、と亮次は怖くなったが、美里はやがて涙を拭いて、顔をあげた。
「ほんとに、……すまない」
うめくように告げる亮次を、美里は責めなかった。
「ありがとう、……話してくれて。苦しかったでしょ」
亮次が弾かれたように顔をあげると、美里は静かに笑っていた。
「亮次が享一のことでなにか抱えてるっていうのは判ってたよ。それですごく苦しんでるってこともね。……だけど、それを訊くのは私も怖かった。なんだか三人の大切な想い出まで、壊れてしまう気がして」
「……」
「でも、今日聞けてよかった。だって判るから。享一は亮次を責めたりしてない。それだけははっきりと判るよ」
美里の言葉に、亮次は全身に重く絡みついていた鎖が、緩やかにほどけていくような感覚を覚えた。
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