第四章 笑えよ、坊…じゃないと俺は……

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 しばらくすると美里の泣き声は静かになり、やがてそっと亮次から身を離すと、美里は涙でくしゃくしゃになった顔を袖で隠しながら、ふふ、と小さく笑った。 「ごめん、……でもなんかスッキリした」 「ああ」  亮次もちいさく笑う。  そのとき、ふと視線を感じて振り返ると、坊が濡れた身体に中途半端にバスタオルを巻いたまま、こちらを見てぼんやりと佇んでいた。 「坊? もう出たのか。早く拭かないと風邪引く‥」  亮次が言い終わらないうちに、坊はふいと顔を背けて玄関に向かって走り出した。 「おい、どこ行くんだ、坊!」  驚いて亮次が捕まえ、バスタオルでくるんだまま坊を羽交い絞めのように抱き締めると、坊は激しく暴れ出した。  坊がこんな態度を取るのは初めてで、亮次はただただ戸惑う。 「坊! どうした、なにか怒ってるのか」  そのまま抱き上げて部屋の奥へ連れていくも、坊は決して亮次を見ようとはせず、宙に浮いた足をばたつかせながら、いやいやを繰り返す。
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