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「あーそっかぁ、坊はやきもち焼いたんだ。ごめんね」
美里が唐突に言うのを聞いて、亮次は驚き、暴れる坊を抱き締めながら、美里を振り返った。
「は?」
「分かんない? 坊はさっきの私たちを見て、ショックを受けたんだよ。大好きな亮次を私に取られたと思ったんだ」
言われてみれば、坊がおかしくなったのは、亮次が美里を抱き締めていたときだ。それに、風呂に入る前も、なんだか様子がおかしかったと思い出す。
(やきもち? 坊が……?)
そう思ったとたん、胸がきゅうとなった。これが美里の言っていた感覚かと思う。
坊はまだ少しもがいていたが、亮次が優しく頭を撫で、背中を撫でてやると、少しずつおとなしくなった。
それから、ごめんな、坊、と謝ると、すねたまま甘えるみたいに、亮次の胸に額をこすりつける。
(おいおい……、可愛すぎるだろ――)
「はいはい、ご馳走さま」
美里にからかうように言われて、亮次は冗談じゃなく、顔が火照るのを感じた。
さっきまでしんみりとしていたのに、こんなに心を浮き立たせている自分がひどく軽薄な気がして、亮次はまともに美里を見ることが出来ず、けれど腕のなかの存在はたまらなく愛おしく、亮次の心は千々に乱れた。
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