第五章 さよなら、坊。元気でな

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 仕事中に突然やってきた男は、亮次が指定した、スタンドから少し離れた空き地に、時間ぴったりに迎えに来た。  初めて乗る高級スポーツカーだったが、坊のことが気になって、ドライブ気分を味わうどころではなかった。  連れてこられたのは、気後れするほど立派な門構えをした料亭だ。 「……俺、こんな服なんすけど」  亮次が困惑とともに低く言うと、男は小さく肩をすくめて見せた。 「誰も気にしやしない」  個室に入ると男は店の者にノンアルコールの飲み物を二人分注文し、料理はしばらく後でいいと言って人払いをした。  座敷で向かい合って座ると、男はふと片方の口の端をあげた。 「いい男だな。写真で見るよりずっと男前だ」  亮次が怪訝な顔で相手を見ると、男はすっと薄い紙の束をテーブルの上に滑らせた。  表紙に「調査報告書」という文字が見えて、亮次は顔を険しくする。 「あんたのことは調べさせて貰った。やむを得ない事情があったんでね」 「どういうことだ、なんで勝手に人のこと調べてんだよ、あんた何者だ」 「まあ、そう焦るなよ。それをこれから説明しようって言ってんだ」
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