第五章 さよなら、坊。元気でな

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 男は亮次を片手で遮って、スーツの懐から名刺ケースを出し、名刺を一枚引き抜いて、亮次の前に置いた。  亮次はそれをひったくるように掴み、素早く目を通す。  鷹蔵(たかくら)真治(しんじ)、というのが男の名前らしい。  会社名はTAKAKURA Co.,Ltdとなっており、肩書には代表取締役社長と書いてある。  TAKAKURAといえば、亮次でも知っている有名な宝石の会社だ。この若さでその会社の代表取締役というのなら、相当優秀な男なのだろう。 「俺は時間を無駄にするのが何より嫌いなんでね。単刀直入に言う。あんたが傍に置いてるあの坊主頭の坊ちゃんは、俺の腹違いの弟だ」 「え、」  亮次は意外な話に思わず真治という男を真正面から見つめた。  同時に腹違いとはいえ、弟に関することなのに、時間を無駄にしたくないと明言するこの男に、亮次は嫌悪感を抱いた。 「そしてこれも調べたらすぐ判ることだから言うが、うちの会社の会長をやってる俺の母親は、鷹蔵真妃(まき)っていう女優だ。そこそこ有名だから知ってるだろ」  そこそこもなにも、日本人ならたいてい誰もが知っている大女優だ。芸能界に疎い亮次ですら、すぐに顔が浮かぶ。隙のない美貌を持ちながら、人当たりが良く、サバサバした性格で、男女ともに人気のある女優、という印象だ。
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