第五章 さよなら、坊。元気でな

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「親父が死んだとき、鷹蔵の人間は初めて、もねの存在を知ったんだ。しかも親父がもねを認知していたと知ったとき、母は怒り狂った。凄まじかったよ。俺も震えあがったね」   その様子を想像して、亮次もただの修羅場では済まなかっただろうと思った。大企業の経営者が愛人と事故死。そして隠し子の存在。会社にとっても、有名女優である妻の真妃にとっても大スキャンダルだ。 「だけど散々もめたあと、結局鷹蔵の家でもねを引き取ることになったんだ。それがこのことを世間から隠す、唯一の方法だと結論付けたんだろうな。でも母は決して許した訳じゃなかった。もねを屋敷の離れに隔離して、徹底的に無視したんだ」 「……」  とんでもない話に、亮次は絶句した。もねを憎むにしても相当酷い。なによりも人を傷つける、タチの悪い方法だと思った。そのときの坊の気持ちを想うと胸に激しい痛みが走る。  亮次の強い非難の眼差しを受けて、真治は一瞬居心地悪そうな顔をしたが、すぐに開き直ったように再び煙草に火を点け、話を続けた。
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