第五章 さよなら、坊。元気でな

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「もねを憐れむ者もいたが、誰も母には逆らえなかった。屋敷に閉じ込めて、学校にも行かせず、誰にも話し掛けさせなかった。だからあいつの学力はせいぜい幼稚園レベルだ。両親と死に別れたとき、あいつは五歳かそこらだったからな。それからずっと誰とも喋ってなかったら言葉を忘れても当然だろ。声帯だって萎縮する」 「どうして……、なんでそんな……、」  あまりにも酷い話に、亮次は俯き、握った両の拳を震わせた。  坊があまりにも憐れだと思った。あんなに心の綺麗な坊が、何も悪くない坊が、どうしてそこまでないがしろにされなければならないのか。  同時に明るくてさっぱりとした印象だった鷹蔵真妃という女優が、実際はそんな風に非情な仕打ちをする人間だったのだと知り、亮次は強い衝撃を受けた。 「あんたは、……あんたも、もねを憎んでるのか。だからずっと放っておいたのか、母親と同じように……!」  亮次にそう詰られることを予想していたのか、真治は顔色ひとつ変えずに亮次を見返した。だがもねにしてきたことが異常であることは当然承知しているのだろう。
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