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懸命に動揺を抑えながら、亮次は真治を睨み返す。
「……なんの話だ」
「ハッ、そういうのはよそうぜ。言っただろ、俺は時間を無駄にするのが嫌いなんだ。話は単純だ。あんたはもねがそんなんでも、この先やっていけるのか。あいつを死なせずにやっていける自信と覚悟はあるのか。人ひとり生き延びさせるってのは、結構大変だぜ。俺たちは少なくとも経済的にはあいつを守ることが出来る。俺たちが人道的だったとはさすがに言わない。でも不本意ながら血の繋がりはある。それなりの責任てもんがあるんだ。だがあんたはどうだ? あいつを愛玩動物みたいに可愛がって、あんたの自己満足につきあわせて、最後にはあいつを野垂れ死にさせるのがオチだ。違うか?」
悔しいが言い返せなかった。真治の言うことは非情だが、正論だった。
坊をこの先養っていける自信などない。その権利もない。
そして自分は坊に強い感情を持っている。坊はたぶん自分を親鳥のようにしか思っていないのに、自分ははっきりとした劣情すら抱いているのだ。一緒にいればいつか傷つけてしまう。それはお互いに不幸だ。
なにより、……なにより兄をあんな風に寂しく死なせた自分に、誰かを愛する資格などあるだろうか。誰かの愛を乞うことなど許されるだろうか。――答えは、否だ。
亮次が苦しげに真治を見ると、真治は亮次の結論を察したらしく、また小さく両手を広げて見せた。
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