第六章 優しい訪問者

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「はい。ですが社長は事故でお亡くなりになり、私も元々家の事情で早期の退職を考えていましたので、そのあとすぐに辞職を願い出ました。妻の真妃さんは事故の背景を知る私が会社を去ることをひどく警戒しましたが、絶対にそれらを外に洩らさないという誓約書を書くことで、ようやく辞職を許されたのです。けれど鷹蔵の家は、常に私を監視していたのでしょう。私は独り者ですが、長患いの母がおりまして、その母が大病を併発したときに、すぐに真治さんから見舞金として多額のお金が振り込まれました。すぐに私は悟りました。これは口止め料なのだと」   亮次は真治のビジネスライクで冷たそうな印象そのままの行為だと感じた。 「私はそれでもいいと、そのお金を母のために受け取りました。おかげで母はなんとか快復しましたが、鷹蔵の家は再び、私にコンタクトを取って来ました。清彦さんの隠し子を預かって欲しいと。今から二年ほど前のことです」  嶋田は出された冷たい茶で喉を潤してから、再び話を続けた。
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