第六章 優しい訪問者

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「私はひどく憂鬱でしたが、もねさんを初めて見たとき、面倒というよりも、怖い、という気持ちの方が先立ちました」 「怖い?」  亮次が声を低く尋ねると、嶋田ははい、と神妙に頷いた。 「もねさんは、なんというか……、語弊を怖れずに言うなら、とても異様な感じがしたのです。顔立ちはとても整っているのですが、それはまるで人形のようで、人の気配のようなものが感じられなかったのです」  ああ、と亮次は小さくうなった。それは亮次が初めて坊を見た時に感じたことと同じだったからだ。 「真治さんからの指示はとてもシンプルでした。もねさんの健康状態には気を付けること。規則正しい生活をさせること。外に出さないこと。世間の情報に触れさせないこと。必要以上にもねさんに触れないこと。そして、決して話し掛けないこと。私はとんでもないことを引き受けてしまったと思いました。別々の部屋に暮らすといっても、同じ屋根の下に住む人間を、無視し続けるなんて並大抵のことじゃありません」  そこで初めて嶋田の顔が苦しげに歪んだ。
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