第六章 優しい訪問者

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「俺も、あの髪型はもねにとても似合っていると思います」  亮次が感謝の言葉の代わりに告げると、嶋田は嬉しそうに目を細め、頷いた。 「初めはもねさんのことを重荷に感じていましたが、彼を毎日見ているうちに、私はどんどん切ない気持ちになっていきました。表情には出ませんが、もねさんの寂しさが私にもはっきりと伝わって来るのです。もねさんはよく窓の外を見ていました。朝も昼も夜も、本当に、とても熱心に見ているんです。まるで籠の鳥でした。その姿があまりにも可哀想になって、私は人目のつかない夜を選んで、とうとうもねさんを外に連れ出しました」 「え、」 「見つかったらただじゃすみません。ですが、私はどうしても彼に、外の世界を見せてあげたくなったのです。もねさんはまるで殻から出た鳥のヒナのようでした。見るもの、触れるもの、全てが新鮮で、驚きの連続だったのでしょう。あの大きな目がきらきらと輝いていました」  その様子を想像して亮次は嬉しくなったが、同時に悔しくもなった。坊と初めて外を歩くのは、自分の役目であって欲しかった。
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