229人が本棚に入れています
本棚に追加
「それで、手を繋いで歩いたんですね」
「手を繋ぐ? いえ必要以上の触れ合いは禁じられていましたから、そんなことはしません。そばで注意しながら見ていました。転びかけたりした時などはもちろん支えますが、それ以上は。もねさんもちゃんと歩きますし」
それなら坊は、やはり亮次とだけ手を繋ぎたがったのだと思い、亮次は嬉しさとともにまた坊への愛しさを募らせる。
「でも私がもねさんにしてあげられたのはそのくらいです。……私も結局は、鷹蔵の家の片棒を担いだのと同じなのですから」
嶋田はふいに暗い眼差しになり、テーブルの上に置いた自分の手をじっと見つめた。
「でもあなたは、坊……もねのことを、とても大事に思っておられた」
「え……」
「庭にもねのための、睡蓮の鉢を置いたり、誕生日にはケーキを用意してあげたり。違いますか」
「どうして……、それを」
目を瞠る嶋田に、亮次は微笑んだ。
「もねの絵ですよ。もねはここにいる間、何枚も何枚も絵を描きました。その中にあなたの家で過ごした日々のことも描いていたんです」
「そう、でしたか」
「あなたの気持ちは、きっともねにも伝わっていたと思いますよ」
嶋田はかすかに目を潤ませて俯いた。
最初のコメントを投稿しよう!