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「あの子は本当に……心の綺麗な、いい子です」
「はい」
亮次がしっかりと頷くと、嶋田は顔をあげ、亮次に微笑むと同時に、どこかが痛むような顔をした。
「――あの日、もねさんがいなくなったのは、私のせいなんです」
「え」
「その前日に、真治さんがうちに来ました。私がもねさんを外に出していることが判ってしまったのです。真治さんは別の施設に移す、と言ってきました。私は二度としないと言いましたが、彼の決意は固く、結局は頷かざるを得ませんでした。もねさんは私の顔色から、それを察したのでしょう。鷹蔵の家に戻されると思ったのかもしれません。だから当日、もねさんを新しい場所へ連れて行く途中、車が停止した瞬間に、もねさんは逃げ出したのです」
それであの竹藪に着の身着のままで辿り着いたというわけか。
ようやくこれまでのことが全て繋がって、亮次はしばし、坊の周りで起きた様々なことに想いを馳せた。
しかしそうするとひとつ、疑問が浮かぶ。
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