Jingle bells,jingle bells

1/34
3人が本棚に入れています
本棚に追加
/34ページ

Jingle bells,jingle bells

 ある冬の夜のこと。頬を切りつけるような寒風が吹きすさぶなか、レンガ造りの家屋のなかからはやわらかな光がもれていた。煙突からは煙が立ち昇り、室内は暖かいはずではあるが、家族の表情は一様に暗かった。  夫妻には三人の娘がいる。貧しさのあまり娘たちを売りに出す必要があったのだ。  悲嘆に暮れながら話し合う夫妻の声をその男は耳にしていた。  その日の真夜中、男は貧しい家族の住む家まで戻ってきた。換気にわずかに開いた窓から金貨を投げ込んだのだ。金貨は暖炉のそばにさげてあった靴下に入った。  娘たちは身売りの憂き目に遭うこともなく、家族は幸せに暮らしたそうだ。  家族にそっと手を差し伸べた男は名をニコラウスという。  ニコラウスの伝説はかたちを変え現代まで続いている。  ゆえにサンタクロースは靴下にプレゼントを残していくのだ。  ☆  どこからか鈴の音色が聴こえてきそうな夜だった。  誰のもとにも平等にクリスマスはやってくる。たとえそれが人ならざるもの相手だったとしても。時間の感覚を失うほど長いあいだ、この地に縛りつけられている存在にも、クリスマスはやってきた。  こんな日くらい、いいじゃないか。任務をサボったっていいじゃないか。
/34ページ

最初のコメントを投稿しよう!