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Jingle bells,jingle bells
ある冬の夜のこと。頬を切りつけるような寒風が吹きすさぶなか、レンガ造りの家屋のなかからはやわらかな光がもれていた。煙突からは煙が立ち昇り、室内は暖かいはずではあるが、家族の表情は一様に暗かった。
夫妻には三人の娘がいる。貧しさのあまり娘たちを売りに出す必要があったのだ。
悲嘆に暮れながら話し合う夫妻の声をその男は耳にしていた。
その日の真夜中、男は貧しい家族の住む家まで戻ってきた。換気にわずかに開いた窓から金貨を投げ込んだのだ。金貨は暖炉のそばにさげてあった靴下に入った。
娘たちは身売りの憂き目に遭うこともなく、家族は幸せに暮らしたそうだ。
家族にそっと手を差し伸べた男は名をニコラウスという。
ニコラウスの伝説はかたちを変え現代まで続いている。
ゆえにサンタクロースは靴下にプレゼントを残していくのだ。
☆
どこからか鈴の音色が聴こえてきそうな夜だった。
誰のもとにも平等にクリスマスはやってくる。たとえそれが人ならざるもの相手だったとしても。時間の感覚を失うほど長いあいだ、この地に縛りつけられている存在にも、クリスマスはやってきた。
こんな日くらい、いいじゃないか。任務をサボったっていいじゃないか。
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