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もうひとつ、よくわからないことがある。
なぜ、この病院に来たのかということ。
最初は、もといた病院から出向で派遣されて来たのかと思っていたけど、どうやらそうではなさそうだった。
九州の大学病院で働いていたのに、この8月いっぱいで突然退職し、うちの病院に就職した。
都内には、有名な大学病院は多数ある。
凛太郎のような、将来を有望視された医者なら、当然引き抜きの話もあっただろうし、どこでも就職できたはずだ。
決して小さいわけではないけど、他の大手の病院に比べたら、格段に落差のあるうちに、わざわざ来なくてもいい。
他の先生たちに聞いても『地元だから』と、本人は言っているらしいけど、それが正解とは到底思えない。
年度末ならまだわかるけど、中途半端な8月に退職をしなくてはならないなんて、前の病院でよっぽどのことがあったのかと、勘ぐってしまう。
先生たちも、凛太郎のような医者が自ら就職してくるのは希らしく、何でだろうなと不思議がっていた。
そんなことを考えていたら、私生活を全く見せない幼なじみは、ジロッと私の方を見て
「櫻井サン。手が止まってますよ」
と、私の手元を指差した。
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