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こんな事で死ぬ筈がない。気配に気づいたのか、狂犬がこちらを振り向いた。やはり生きていた。体じゅうボロボロではあるが、頬にはりついた不適な笑みは相変わらず変わらない。
「残像か・・」
血の入り混じったツバを吐きながら狂犬が言う。(さすが狂犬だ。もう気づくとは・・・)正確には幻影だ。
今回、緊急召喚された彼女には本来の騎士としてのスキルと。魔力武装、アサシンの
スキルを持った複合型魔法剣士になっている。
召喚者が持っている能力を緊急定着させた形だが、これは今までに例のない、実験的な措置だった。おかげで目の色は変わり、背は低くなるという副作用が現れたが、かわりにアサシンとしてのスキルを得た(見えない剣や、先程のかまいたち、今の残像もこの能力が反映された。)
狂犬が銃撃した転生騎士は全て偽物であり、その隙に、いくつもの剣撃を加え、目の前の
ボロ雑巾に変えたという訳だ。横たわる相手の喉元に透明を解いた剣を突き付ける。
「その状態でまだ喋れるとは。やはり頭を落とさねば駄目ですか?」
その言葉に狂犬は、実に嫌な、彼女の時代にもいた、わかりやすいくらいの悪人の笑い声を
辺りに響かせ始めた。
「何が可笑しい?」
「クックックック、貴方に俺は殺せんよ。」
転生騎士は剣の先を狂犬の首に押し当て、宣言する。
「やはり首をはねましょう。これ以上の愚公はたくさんだ!!」
「よく考えろ。転生騎士嬢ちゃん・・オタクも戦争屋だろ?
俺が闇雲に逃げ回っていたとでも?周りを見てみな。」
周り・・彼女は言われた通りに辺りを見渡し、そして辺りに何も遮蔽物が無いことに気づく。と同時に、遥か遠方に(1キロ程の距離があったがアサシンのスキルで見る事ができた。)
こちらに砲塔を向けている巨大な鉄の塊“戦車”を見た。
「貴様!!」
転生騎士は身を動かそうとし、狂犬に足をシッカリ掴まれていることにも気づく。
「弾種、魔團徹甲(通常の徹甲弾に対魔法コーティング施したもの)!!」
耳につけたインカムに怒鳴りながら、狂犬は少女に向かって、空いている方の手で、
親指を突きたて叫ぶ。
「Good-Bye!!Girl!!次の世界で会おうぜ!!」
鈍く、押し殺したような砲声が響く。この世界で転生騎士が最後に聞いたのは、
自分に向かってくる鋼鉄の弾頭の振動と狂犬のイカレタ笑い声だった…
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