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古いバンドエイドを剥がしていると、ポーンという音がして、大学時代のグループチャットから通知が来た。
《今、みんなで集まっていまーす!》
《暇な人、集合ー!》
修也は通知を尻目にテーピングを巻く。
今日は5人ほどで集まるようだ。
修也とこのグループチャットを取り仕切っている幹事の人たちは、知り合いではあっても仲のいい友達とは呼べないくらいの仲で、行けませんという返事はしても参加はしたことがない。
《斎藤修也さん、イラストレーターやってるって聞いてますけど、進捗どうですかー?》
珍しく名指しされている。
修也はスマホを持ち、グループチャットに返信をした。
《お誘いありがとうございます。明日までの仕事があり、行けません。皆さん楽しんできてください》
まじだったんだ、がんばってね、と顔もおぼろげな人たちから適当な返事が返ってくる。
《本当にこれないのー?》とも。
「……どうしよ」
行ったっていいんじゃないか。誘ってくれているんだし。
行って、夜頑張って描いたって、間に合うだろう。
クオリティはわからないが。
返事を迷っていると、母親が部屋の扉を開けた。
「おやつと紅茶持ってきたわよ」
「えっ、ありがとう」
「なにがあったのか知らないけど、がんばりなさいよ」
母親から労いの言葉をもらったのは初めてのことだった。
ドアが閉まる。
机に置かれたのは、皿の上に置かれたどら焼きと、紅茶の入ったマグカップ。
どら焼きは近所の商店街でおいしいと評判の、母親お気にに入りのどら焼きだ。
マグカップは、イベントで買った好きなキャラクターのマグカップだった。
わざわざこれに紅茶を入れてくれたらしい。
「……ま、大したことないか」
落ちたパソコンも、ペンだこも。
またつければいい。
また治る。
修也はグループチャットの通知をオフにした。
「いただきます」
どら焼きと紅茶をおいしくいただくと、彼は仕事に戻って行った。
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