第一章

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後にルクソール事件と呼ばれるこの爆破テロは、イスラム過激派集団による犯行で、イスラエルと国交を結んだエジプト政府への不満から観光客を狙ったものだった。 外国人観光客58人と警察官含む現地人4人が死亡し、エジプトの観光産業に大きな打撃を与えた。 普段、人は自分の中身を気にすることがない。 筋肉の付き方や内臓の位置などを知っている人は医者を除くと少ないだろう。 獣医である白石は、猫や犬の構造には詳しいが人間については学んでいない。 ...なるほど あたりに飛び交う悲鳴や怒号、アラビア語に詳しくない白石にも何を言っているのかわかる あたりをよく見ると人間の残骸が飛び散っている 斎藤が白石の身体を引きずりながらも安全な場所に避難させようとする 「とりあえずあそこまで走るぞっ」 右も左もわからないまま走り出す 砂ぼこりのせいで満足に目を開けられないまま、安全な場所を目指して走り出す 目の端で何か動いた 人だ 生きている人だ 怪我をしているらしく動けないようだ 白石は走り出した 「おいっ白石!」 悲惨だった 片腕はちぎれ、断面は砂で見えなくなっていた あたりは血の海で腹部には大きな傷があった 助からない とっさにそう考えたが、まだ生きている人間を見捨てることができない 白石は医者ではない あくまで人間以外をみる獣医である しかし、ヒッポクラテスの誓いを立て、医療に携わるものとして白石は決断した まずは止血 腕の断面は焼き切れており血が止まっていたが、腹部の傷は現在進行形で出血中である とりあえずリュックサックから水を取り出し傷口をきれいにする その上からタオルで圧迫する 最も効果的な止血方法だと教わったが、こんなところでは意味はない 「もう無理だ」 いつの間にか斎藤が近くにいた その怪我人は少年だった 顔は血に汚れ、砂まみれだたが 青い目をしていた 今までわからなかったが先ほどのターバンを巻いた子だった 「タビーブ...」 白石にはアラビア語はわからない 何といったかわからないまま死んだ
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