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第一章
口の中の砂のじゃりじゃりとした感触に不快感を感じながら、リュックサックから水を取り出す。
ナイル川の恵みを受ける人々は、街のいたるところに設置している水瓶から水分補給を行うが、繊細な日本人である白石には、誰が使ったかわからないようなコップで水を飲む気にはなれなかった。
水で口の中の砂を洗い流した後、次の観光地までの道順を確認している途中、ターバンを被った少年が走っていくのを白石は見た。
エジプトでターバンを巻く意味は二つある。
一つは宗教的敬遠さを表す場合。二つ目は単なる砂除けの場合。19世紀以降、前者の理由でターバンを巻く人は少なくなったと聞いたが、ターバンを巻くほど砂がひどいわけでもない。
友人の斎藤に声をかけようと振り向いた瞬間・・・
耳をつんざくような爆発音が白石を襲った。
大きすぎる音と爆風、砂のつぶてが判断力を奪い
白石は何が起こったのかわからなかった。あたりは悲鳴に包まれ、煙と砂ぼこりで何も見えない。
立ち上がろうと地面に手をつくと、地面は湿っているように感じた。
砂ぼこりが落ち着き、ようやく視界が開けてくると、そこに見えたのは地獄の光景だった。
観光客でにぎわっていた場所が一瞬にして瓦礫の山となり、そこら中によくわからない破片や布のかたまりが散らばっている。
斎藤はどこだ...
さっきまで後ろにいたはずだ。
立ち上がろうとすると
「伏せろっ」
頭をつかまれ地面に押し付けられた。
その瞬間、バリバリバリともう一度大きな音が鳴り、爆風と砂が飛び散った。
声の主は斎藤だった。
「このまま頭を下げて移動するぞ」
悲鳴のせいでほとんど聞こえないが何とか理解し、移動しようと体を起こすと背中に強い衝撃を受けた。
金属バットで殴られたかのような衝撃に息ができなくなった。口の中の砂が衝撃で吐き出された。
「いぎっ...なんだこれ?」
背中に落ちてきたものを拾い上げる
腕だ
背中に落ちてきたのは腕だった。
そこでようやく何が起きたのか理解した。
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