知らない夜

5/8
前へ
/8ページ
次へ
それから中学生になってからも僕は変わらない。けれどその時も父は何も言っては来なかった。始めの二ヶ月くらいはまだ顔も名前も覚えていない担任が何度か尋ねてきたけれど、僕の足がコンクリートを踏むことはなかった。朝起きたら、テーブルの上に置かれたコンビ二袋から適当にパンなどを取って部屋で食べては寝て、暇をもてあましゲームや漫画、小説、絵を描いたりなどを描いて過ごしていた。そしてこのまま誰とも関わらずに、これ以上の悲しみも知らずに死んで行きたいと毎日願っていた。  けれど僕の日常は、突然変わり始めた。僕がこの家に来ることになる経緯。  その日、僕はいつもどおりに朝ごはんを取りにリビングに下りて行くと毎週日曜日しか休みがないはずの父がまだ居た。  僕は驚いて立ちすくんでいたけれど、父は僕に背を向けたままソファーにうな垂れていた。僕はそっと足音を立てないように自分の部屋に戻った。その後で布団に潜り、息苦しい胸をなだめた。それからこの日は何度も家の電話が鳴っていて父はその電話に謝ったり怒鳴ったりしていた。そして突然、父は怒鳴りながら暴れ始めた。食器やなんかの割れる音が僕の部屋まで聞こえてきた。  僕は何の脈絡もなく、殺されると思った。部屋から引きずり出されて、僕も怒鳴られると思った。  けれど実際、父が二階に来ることはなかった。落ち着いては、怒鳴り始め、暴れる。それを繰り返していた。当然、僕はその間ご飯を食べることは出来なかった。それが次の日も続いた。二日目の夜には腹痛が通り過ぎて、もはや何も感じることが出来なくなっていた。その中で、このまま安らかに死ぬのだろうかと考えた。  父や、周りの沢山の人に迷惑をかけて、生きる価値のない僕への天罰かもしれないと、静かに罪を受け入れていた。  次の日、知らない大人達が僕の家に来た。この時は意味が分らなかったけれど、その人たちに身支度をさせられて、あの施設に連れられた。  道中、大人達が僕の父が精神的に僕を養える状態に無く保護をするべく児童養護施設に連れて行くと言っていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加