本当の色

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「うん。もうあったかいからええ。早よ帰ろ」 「いけんよ、今はあったかくても。濡れたままじゃと風邪ひいてまう」 小夜は俺の手を引っ張って、無理やり鏡台の前に座らせた。目の前に茶色い小瓶が置かれる。なんだろう。 「柚子油。髪の毛サラサラになるんよ」 これの香りだったのか。手にとってみる。 「ああ、地肌つけたらベタベタなります。こう、毛先に」 「毛先に」 よっぽどやり方がおかしかったのか、見兼ねた小夜は俺の髪を手で梳きはじめた。小夜が十円玉をいれると、ドライヤーからゴオとあたたかい風が出てきた。そのまま俺の髪を乾かしてくれた。誰かに髪をさわられるというのはとても気持ちのいいことだと知った。 待合室に戻ると、三葉は待ちくたびれたという風に空になったサイダーの瓶をくわえていた。 「お前らうるさい。こっちまで全部聞こえとる」 それから小さな口をとがらせて言った。 「ええの、女は楽しそうで」 ・ 家に帰ると、客間に二つ、布団が並んでいた。身体の中はまだほかほかしていて、これはしあわせの温度だと思った。だから俺はそのまま布団にくるまった。 「なんじゃもう寝るんか」 「寝えへん。あったかいままでおりたいだけ」     
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