本当の色

13/17
前へ
/39ページ
次へ
次の日は、近くのお寺へ行った。 「ここぐらいしかみるもんないけ」 「ていうかなんでお前がついてきとる」 「ええじゃろ」 三葉に舌を出して、小夜は俺の腕を掴んだ。その寺は山の上にあって、ロープウェイに乗っていった。あまり下は見ないようにした。怖いんじゃろ、ちゃう、怖いんじゃ、ちゃう、の応酬をしているうちに頂上へついた。そこからは彼の育った街が一望できた。坂道、そこに連なる家々、海と対岸の島。穏やかな海を眺めながら育つ。殺風景な市営住宅で育つ。それで同じ人間になるわけがないんだと、彼の金色の髪が光に透けるのを見つめていた。 「三葉、あのこと家族に言うてへんのか」 ずっと気になっていたことだった。彼はふうと大きく息を吐いた。 「言うとらん」 そうして街を見つめながら言った。 「ここで育った俺も事実で、あの人に傷つけられた俺も事実じゃ。けどできれば前者のままで過ごしていきたい。ここにそういうことを持ち込みとうない」 山の斜面に張り出した本堂の舞台に立って、小夜がこちらに手を振っている。 その奥で、春の海が穏やかに揺れている。眩しかった。彼女は傷つく前の彼だ。 「ええよ、手つないだりとかしても。私におかまいなく」     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!

45人が本棚に入れています
本棚に追加