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寄っていった俺たちに、小夜はにやにや笑いながら言った。そんな彼女の手前、まさか昨日、初めて手を繋いだとは言えなかった。俺たちは一緒に眠ることはあっても、手を繋いだり、キスをしたりすることはなかった。おかしな話だと思う。
「なんか髪、落ち着いとるな」
「小夜に油つけてもろうた。柚子の匂いする」
「ほう」
三葉の細い目をじっと見つめた。触っていいという合図だったが、彼はふっと目を逸らした。彼は怯えている。俺に触れること、触れられること。悲しくて、その視線を海におくった。眩しかった。
「つながんのじゃったら私がつなぐ」
そう言って小夜は俺の手をとった。
・
家へ帰ると、玄関先に猫がいた。すこしぽっちゃりした、白い猫だった。
「あ、ポチポチ」
小夜は猫のもとへ駆け寄っていった。
「ポチポチって、こいつの名前?」
「うん」
「ポチじゃなくて」
「うん」
「猫なのに」
「うん」
真面目な顔をしてこたえる。ああ似ているなと思う。
「でもあっちのお家ではミーコって呼ばれとる」
小夜に撫でられて、猫は気持ちよさそうに目を閉じていた。それからなにを思ったのか、俺の方に近づいて、足元に身体をこすりつけてきた。お前はいいな。ちゃんと相応しい名前が与えられて、どこでも受け入れてもらえるんだから。まんまるな目が小夜みたいだ。お腹をさするとふよふよとやわらかかった。
「お前も女か?」
・
一緒に寝たいと小夜が言ってきたのはその日の夜だった。
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