本当の色

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フレーズひとつひとつが胸に刺さり、どうにも涙が止まらなかった。小夜は困った顔をして、ティッシュを置いて俺の前で正座していた。結局その夜は、小さなベッドの中で、二人一緒に小さくなって眠った。小夜は三葉と同じ匂いがした。三葉がこの家を出てもう六年が経っているというのに、それでも家族というのはみんな同じ匂いがするんだな。この世界のどこかに自分と同じ匂いをもつ人がいる。それってとてもしあわせなことだ。それだけで生きていく理由に値する。俺と同じ匂いの人は、きっといない。彼女が手を握ってきた。小さくてやわらかな女の子の手だった。 ・ 目を覚ますと小夜はまだ眠っていた。寝顔は彼とよく似ていた。スウと息をするたび、胸元が上下する。睫毛がふるふる揺れている。それらをじっと見つめていた。ふとこめかみに傷跡があるのを見つけた。どうしたんだろう。この傷の理由を、三葉は知っているのだろうか。まだまだ分からないことばかりだ。その傷跡をそっと撫でた。
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