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バトンを三音さんに押しつける。三音さんは立ち上がって、それを投げた。勢いはいい。やがてそれは三音さんの頭の上に落下した。
「痛い」
ふっとふきだしたのは、二人同時だった。兄ちゃんと私はお腹を抱えて笑って、三音さんだけが頭を押さえてこちらを睨んでいた。その姿はとてもかわいかったし、兄ちゃんがこんな風に笑っている姿を久しぶりにみて少しほっとした。転がったバトンを拾う。
「リズムを掴まないけんの」
「曲のリズムか」
「それもあるけど。それとは別に自分のリズムがあるんよ」
「自分のリズム」
「バトンの回転の速さは一人一人違うけ。見つめながら、心ん中でリズムを刻むんよ。で、ぴったりと思うとこで、キャッチ」
頭を押さえたまま、三音さんは真剣な顔をして聞いている。
「でもお前じゃって頭でキャッチしたことあろう」
ああ兄ちゃん、その時のこと、言うんだ。
「どうせ好きな男のことでも見とったんじゃろ」
あながち間違いではなく何も言えなくなる。でも私はちゃんと見ていた。自分のリズムを刻むバトンを。
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