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あれは三年前の今日みたいな日だった。春休み、バトン部は校庭で練習していて、その隅っこで陸上部が休憩していた。彼らはこちらを見ていて、その中に佐々木くんがいるのは分かっていた。
ホイッスルが鳴って、一斉にバトンが投げられる。私もそれに合わせて投げた。けれど、手首のスナップが上手くきかなかった。ゆるい。私のリズムではない。いや、これだって私のリズムだ。だから捉えるんだ。いち、に、さん…。佐々木くんの黒い瞳が浮かぶ。気持ちが揺れて、私はその速度を見逃した。気がついた時には、こめかみから血が流れていた。私は、自分のリズムをつかまえることができなかった。ちゃんと見つめていたのに、自分のことが、分からなかった。
思えばあれは恋だったのかもしれない。今となっては分からない。もうそれは今ここにないから。私はそれすら掴みそこねた。
・
「ひなた、今日は佐々木と帰るんか」
「うん」
私の大切な友だちは、目を伏せて少し照れた様子でこたえた。
「はあええの。ま、うちらは大学生なったらイケメンの彼氏つかまえるけ」
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