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八条口の改札前で、俺を見つけるなり彼は言った。
「結局いつも通りかい」
冗談みたいに言いつつも寂しそうな顔をした彼のことを、一生忘れられないなと思った。
中学も高校も修学旅行には行かなかったから、新幹線に乗るのは初めてだった。新幹線はとんでもないスピードで俺を京都の街から引き離して、福山という駅に連れてきた。これは便利な乗り物だなと思った。対して乗り継いだ在来線はゆったりと進んだ。福山から離れるにつれ、だんだん視界の明度が高くなっていく。きっと海が近づいてきているんだ。じっと窓の外を見つめる。二駅過ぎたところでそれは姿を現した。とても綺麗だった。水面が乱反射を繰り返す。海も空も同じ青をしていて、自然に溶けあっていた。
「分からへん」
「なにが」
「境目が」
・
俺たちは尾道という駅で下車した。駅の目の前には港があって、穏やかな空気が街全体を包んでいるようだった。陽射しは京都よりずっとやわらかい。
「こっち」
彼は海とは反対の山手に向かって歩き始めた。線路を越えて、坂をのぼる。なかなか坂道は長くて、急だった。振り返らないまま彼は言った。
「あのな、妹がおる」
「うん」
「こないだ高校卒業したとこ」
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