あなたは美しい

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きかれるのだろうか。けれどそう言ってから、小夜は黙ってしまった。二人分の足音が響く。しばらくすると、ぼんやり光る佐々木酒店が見えてきた。店内ではまたあの少年が真剣にお札を数えていた。その隣には少年と同い年ぐらいの女の子が座っていて、やわらかな眼差しでそれを見守っていた。ふとその子が顔を上げた。俺の方をみて、微笑んで、小さな礼をした。なんだか大切なことを頼まれたような気がして、あわてて礼を返した。小夜はそれに気づかないまま、ずっと目を伏せていた。ふと顔を上げて、すっと息を吸う。 「三音さん」 ああきかれる。そしたら言おう。俺のこと、三葉のこと、二人のこと。覚悟を決めた。けれど小夜の口からはあの日と同じ言葉がこぼれた。 「三音さんは、綺麗じゃ」 小夜はまっすぐ俺の目を見つめて言った。 「私は何があったんか知らん。でも三音さんは、汚くなんかない。そのままで綺麗じゃ」 ・ 客間に戻ると、三葉は布団に寝ころんでいた。何をするでもなく、天井をじっと見つめていた。 「どうした」 なんでこの人は、分かるんだろう。 「小夜、俺のこと綺麗やって言ってくれた」 「うん」 「綺麗やって」 「うん」 「信じたい」 絞るように言った。夕陽に染まった部室で、部長と泣いた日のことを思い出していた。 「お前、ここ来てから泣いてばっか」 三葉はゆっくり起き上がった。髪を撫でて、抱きしめてくれた。 「小夜に、話すわ。お前のことも話すことになる。ええか」 声にならなくて、ただ頷いた。
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