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「ガチガチじゃん。緊張しんのが小夜の取り柄なのにのう」
飛鳥がいつもの調子で言う。そうやって緊張をほぐそうとしてくれてるんだってわかってるのに、何も言い返せない。すると、かたくなった肩がふっとあたたかくなった。気づいたら、ひなたの腕の中にいた。
「あ、ずるい」
飛鳥がそこに覆いかぶさる。二人は私がしがみついたりしなくても、ちゃんと抱きしめてくれる。二人の体温が身体に馴染んでいくのが分かって、私はとてもほっとした。兄ちゃんや三音さんとこういう風になることは、きっとないだろう。でもそれでいい、それがいい。今はそう思う。最後の演技の前、まっくらな舞台の袖、友だちの腕のあたたかさ。私はこの瞬間を一生忘れないと思った。
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