夕暮れを越えて

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三音さんは私の髪を撫でた。それからこめかみに触れた。何も言わないまま、なんども傷跡を撫でてくれた。不思議と心は落ち着いていった。夕陽のオレンジが消えてしまった頃、ゆっくりと唇が近づいきて、私の唇にふれた。あたたかくて、やわらかかった。ありがとうでもない、ごめんなさいでもない、言葉になる前の感情というものが私たちの中にたしかにあって、その温度や色合いや明るさ、すべてが一緒で、互いにそのことを分かっていた。とんでもないことだった。身に余るしあわせだ。私はもうこのまま生きて、死んでいける。三音さんはそっと抱きしめてくれた。髪が頬にかかって、ふわりと甘酸っぱい香りがした。 「俺は、三葉に分かってもらいたい」 「うん」 「三葉のことも分かりたい」 「うん」 「ちゃんと三葉と付き合いたい」 胸が熱い。それだけで十分だった。私はちゃんと掴んだ。 「三音さん、兄ちゃんのこと、お願いします」 天井で、星がやわらかく光っていた。
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