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口にして確かめる。綺麗な名前だ。
「私はなんて言うたらええじゃろう。マサトさん?ミオさん?兄ちゃんいっつもなんて言いよるの?」
「え」
彼が固まるのも無理はなかった。俺は彼のことを三葉とよぶ。彼は俺のことをマサトと呼ぶ。いや、呼んでいた。
俺が男みたいに振るまう理由を知ってから、三葉は俺のことを三音と呼ぶようになった。俺はマサトの方が馴染んでいたからおかしな感じがしたし、三葉からもらった名前を取り上げられた気がして悲しかった。けれど、なんとなくそのことは言わないでいた。そうして言わないでいることを、三葉は分かっていた。けれど何も言われなかった。俺たちはいつも一緒にいるけれど、それでも言いあえない部分はあって、それを寂しく思うこともあれば、それに安心することもあった。
「三音でええ」
「じゃあ三音さんね」
笑った顔が似ているなと思った。そこに彼の母がすっとお茶を差し出して言う。
「けれどほんとうに美人さんね。テレビに出てたりしない?五人組で踊ったりしてない?」
してない。いったいなんの話だ。こんな突拍子もないことを大真面目に言う人を、俺はもう一人知っている。
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