0人が本棚に入れています
本棚に追加
知人の話。
彼女は自称売り出し中のアイドルで、いわゆる地下アイドルのグループに属している。
明るく社交的な性格で、クラスにいれば目立つのは間違いないけれど、芸能界はそんな娘ばかりが集まる場所だ。それだけでは当然のように埋もれてしまう。
野心家で向上心豊かな彼女は露出を増やすため、文字通り際どいコスプレや布の少ない水着での仕事も断らず、握手会やツーショット撮影会なども笑顔でこなしている。
「危ないこともあるんじゃないの?」
それとなく忠告めいた言葉を掛けたこともあるが、彼女は
「地方局だけど、ちゃんと名前の出る仕事も貰えたから。メジャーになるまでの辛抱だって」
そう言って取り合おうとはせず、笑って見せるだけだった。
そんなある日、彼女のマンションのドアに、べったりと手形が付いていた。
脂の浮いた手で、汚れ仕事をした後のようなものが、白いドアに一つだけ。
大きさからして男性のものだろう。
オートロックのマンションだから、住人の誰かのものだろう。
彼女は少し不快に思ったが、掃除をして手の汚れた管理人がよろけてうっかり付けてしまったのだろうと、さほど気にせず拭き取った。
最初のコメントを投稿しよう!