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episode 2 再開
冬の晴れた早朝のことだった。
寒いエントランスは人気もなく、静まり返っていた。
そんな平和極まりない静寂を破るように突如、孤児院のベルが鳴った。
その日は珍しく院長は不在であった。
夕べから隣町へ出かけていたのである、昼頃に帰ってくる予定だという事だ。
当院に働き始めて10年になるマリ。
マリは孤児院の子供たちのお姉さん的存在であった。
「はい。ただいま参りまーす。少々おまちくださーい。」
明るい人当たりの良い声で扉の向こうに待っているであろう何者かに向かって声をかけ、寒いエントランスに駆け下りてきた。
マリはガウンの前をきつく閉めなおして自分の姿をエントランスの大きな鏡に映してニコッと笑い、一呼吸おくと扉を開けた。
扉を開けたそこには、誰も立っていなかった。
目線を少し下げて見ると直ぐマリの心は悲しみと世間への落胆に肩を落とし、大きくため息をつきながら貼り付けた笑顔をさっと消し去った。
”現代にこんなやり方と…”
マリは心の中でそうつぶやくと、玄関先にあるベビーカーを押して、あわてることなく 院の中に入った。
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