第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

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9時近いのに、まだ着替えずに居る木葉刑事の元に、木田一課長が近づいた。 「はい。 金の流れは、これまでも追って来ましたからね。 何か、違う形で斬り込める情報を捜してます」 「近道って訳か?」 オフィス用品の長テーブルに腰を預ける木田一課長。 資料を眺める木葉刑事は、 「‘近道’になるかは、解りません。 ですが、例の組織も繋がりが分かりやすい糸は既に切断している筈。 この師岡なる被害者と組織が繋がっているとしたら、判り難い糸がまだ切れてないかも知れないので…」 「なるほどな…」 納得した木田一課長だが。 「処で、なぁ木葉」 話し方のニュアンスが変わったので、木葉刑事が見上げる。 「課長、どうしました?」 木田一課長は、どうも不満を顔に表していて。 「お前、まだ夜飯はまだなんだろ?」 「えぇ・・、そろそろ何か買おうかと」 「ならば、俺に付き合わないか?」 会議室に居た少数の刑事、前の列に座る美田園管理官や八重瀬理事官も見た。 木田一課長の気持ちが解るのか、木葉刑事は眼を細める。 「一課長、まさか…」 「探るな。 お前なら解ってるだろうが」 苦虫を噛む顔の木田一課長に対し、木葉刑事はやや呆れ顔。 「まぁ、一課長の驕りならば…」 「よし、決まった」 席を立つ木葉刑事は、資料を薄いファイルに挟みながら。 「って言うか、去年の健康診断で幾つか引っ掛かったんでは?」 聴きたくないらしい木田一課長で。 「妻みたいな事を云うなよ」 「運転手にバレても、自分は知りませんよ」 歩き始める木田一課長は、其処でニヤリとし。 「大丈夫だ。 驕りの代わりに、お前が誘った事にする」 完全に呆れる木葉刑事。 「かぁ~~、キッタねぇ」 「安心しろ、代償に見合う所だ」 「へいへい」 一刑事と一課長の付き合いなど、他の刑事や管理官でも驚く。 夜の11時前、一人で捜査本部に戻る木葉刑事が、資料を取りに帰った。 美田園管理官と2名の現状資料班の職員が残るのみ。 会議室の明かりの六割が落ちている中。 「木葉刑事」 美田園管理官が呼び止める。 「はい?」 「一課長と、個人的に付き合いが?」 すると、木葉刑事は手を団扇にして風を送る。 「何の匂いか、判ります?」 匂いを嗅いだ美田園管理官は、焼肉屋の匂いを嗅いで。 「これって、焼肉の匂い?」 頷く木葉刑事。
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