第三部:その時を待ちながら厳冬に事件が続く

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だが、木葉刑事は呆れた顔をし。 「こんな未来もない窓際刑事に、鴫さんが想いを寄せるなんて童話ッスね。 瓶内さんって、意外にロマンチストですか?」 「あら、私だってロマン位は抱くわよ。 貴方が、枯れ過ぎてるんじゃないの?」 「スイマセンね。 織田さんにも、よく“枯れ葉”とか言われてます」 「あはは、枯れ葉ね。 ピッタリだわ」 「口が悪いッスね」 「昔からよ」 口の悪い瓶内鑑識員より、変わり者だらけの鑑識課の話をされて笑う木葉刑事。 そんな二人を乗せた鑑識車が警視庁に。 木葉刑事は、知り合いの刑事に会い、波子隅の捜査の経過を聞いた。 何かに怯える波子隅は、もう完落ちして観念しているとか。 だが、知り合いの看守と成る職員に頼み、或る人物には会わせて貰う。 問題に成らぬ様に、女性の看守員が同行する。 「どうも、風邪とかひいてませんか?」 鉄格子越しに声を掛けるのは、朝比奈なる女性関係者だ。 「あ、アンタ…」 少し窶れた彼女は、此方を睨み上げて来た。 然し、これ以上の事を構える気も無い木葉刑事で。 「貴女が、あの人物との接触を拒否した理由は、解りました」 すると、唇を噛み締める様に俯く関係者。 彼女の前に屈む木葉刑事で。 「あの、もしかして肥田なる人物からも、脅されてました? 例の事実で」 顔を背け、この彼女なりに恥じる仕草を見せる。 その姿を見る木葉刑事は、己の亡き母親の姿が重なり始めた。 自分を犠牲にしてでも、大切な何かを守ろうとする者。 心身を汚したとしても、世間が単一化の様に言うほど腐らせて居ない者だっている。 他に差し出せる犠牲、対価が無いから、心身を汚すことだって有る。 (母さんも、東京に居た時や、居なくなって死ぬまでは…) 刑事なんて職業は、或る一方の正義を糺したり、真実を調べる事は出来るが。 被害者や被疑者の家族を守れるとは限らない。 そんな、微妙な立ち位置で在る。 「・・一応、電話で確認は取りました。 捜査本部としては、あの関係者については捜査しますが。 貴女の秘密については、これ以上の捜査をしないでしょう。 肥田も重要参考人として捜査対象に成っていますから、貴女に絡むウザい鎖は断ち切られると思います」 すると。 「あ………」 何かを言った彼女。 木葉刑事には、その意味が解る。 「貴女が心配する人物の今の状況は、知っていますか?」
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