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すると、小さく頭を左右に動かした彼女。
「これは・・、自分の独り言です。 彼女は、養護施設を経営する夫婦の養女に成っていました。 随分と明るい人柄で、英語や歌が得意みたいですよ」
木葉刑事の語りに、関係者の女性が顔を向けて来た。
上着の内ポケットから何かを取り出す木葉刑事で。
「一応、差し入れと云うことで…」
食器等を房内に入れる窓より、四つ織りのコピー紙を差し出す。 彼女が受け取ると、立ち上がり。
「もう、大して力には成れませんが。 看守の方に食べたいものが有れば言って下さい。 何か、差し入れしますよ」
と、去る木葉刑事。
彼女と木葉刑事を交互に見た看守の女性職員だが。
「うっ、ゔぅぅ…」
コピー紙を見て泣き出した彼女。
「ちょっと!」
小声ながら鋭く声を発し、後を追って木葉刑事の肩を掴む若い女性職員。 木葉刑事を振り返らせた処で。
「あの差し入れって、何っ」
圧し殺した声ながら、強く問い掛けた。
すると、ズボンのポケットに入れて在った10000円札を出した木葉刑事。
「な、何コレ」
「彼女から何かの要望が有れば、差し入れを」
「へっ?」
驚く女性職員に、グッと顔を近付けた木葉刑事が。
(もう会えない、彼女の産んだお子さんの写真がコピーされた、カラープリンタです)
女性職員の眼が、大きく見開いた。
(え?)
その話と、ついさっきした木葉刑事の話がリンクした女性職員。 木葉刑事の肩を掴む手が力を失い、御札を静かに掴む。
「解った…」
「御迷惑を掛けました。 それで、何か暖かいものでも…」
他の誰かに見付かると面倒に成る。 用を済ませた彼は、留置場から去った。
さて、夜の6時を回った頃。
「おう、木葉」
帰ろうとする木葉刑事を片岡鑑識員が見付けた。
「片岡さん、今夜も仕事ですか?」
「おう。 新たに遺体が発見されたからな」
「それは、此方の関係者ですか?」
「あぁ。 組織対策室の方で漸く、あの芥田が属してた組の組長を見付けたんだがな。 何と、廃ビルの中で腹を切り裂かれて死んでた」
「関係者が、みんな死んでますね」
「おう」
二人して並び、休憩をする一角に向かう。 その様子を見た鴫鑑識員だが、話し掛けそびれで溜め息を漏らした。
(胸が焦がれるとは、この事かの。 ふぅ…)
だが、その後だ。
鴫鑑識員に智親鑑識員が、先輩鑑識員と帰る時に。
「あ、お姉さま」
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