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其の声に一刀へ微笑み頭を下げると、次に表情を引き締めた久遠は、身を正し改めて錦へ拝した。
「后妃様。此の度は私の縁談にお口添え頂き、有り難う御座いまする。貴方様への不義理、生涯を懸けて償わせて頂きます……!」
錦は驚き、久遠の肩へ触れ身を起こすよう促した。徐ろに、顔を上げた久遠の瞳に映ったのは錦の笑顔で。
「不義理なんて何もされて無いよ。姉上へお願いしたのも、久遠殿なら葵を大切にしてくれると思ったからさ……でも、一つだけお願いをするなら葵と沢山幸せを見つけて欲しいな」
あまりに美しい笑顔、暖かい言葉。久遠は拳を握り締め、頷く様に頭を下げる事で答えて。そして、此の御方の為なら命をも厭わない、揺るぎ無い忠義を尽くすと強く誓ったのだった。
見守って居た一刀が此処で。
「久遠、お前と家臣達が監視の元で一月(ひとつき)過ごした後だが……宮の再建はまだ掛かりそうなのだ」
一刀がそう言いつつ、少々悩ましげに息を吐いた。
「牢からの出勤で構いませぬ」
「東宮が『空き家』となっておる。父上と前后妃が御所へ移り住んで以来、月一度程の手入れしか行われていないが、状態は良い」
一刀の言葉に、久遠は一瞬表情を強張らせた。東宮御所は、嘗て一刀の父である前帝と叔母である前后妃が夫婦となり、住まいとしていたのだ。そんな処へ大きな罪を犯し、汚れた己が立ち入る等と。
「帝……御気持ちは有り難いのですが、私に相応しい住まいとは思えませぬ」
苦し気な表情で俯く久遠へ一刀は首を横へ振り、久遠の言葉を否とする。
「お前が、其の様な顔で申すならもう十分だ。其れに、お前が住まうならば前后妃の心が救われよう……私には、出来ぬ事なのだ」
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