新年。

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「お前の口添えがあったお陰だろうな。西の帝より、思った以上に早い返事が貰えた」  一刀がそう言いながら西の帝、雅からの文を懐より取り出し錦へ渡す。愛する姉の字を錦は嬉しそうに眺めている。其処へは、東の帝一刀へ、両国交の更なる発展の為に此方も努力を惜しまぬとの事、従姉妹の葵と久遠の婚姻を了承する旨、そして、錦を何卒宜しくとの事。其処は、何故か二度も綴られている。余程、弟の身を案じてているのだろう。  文を読み終えた錦は、安堵した様に息を吐く。 「良かった……でも、あの……姉上も葵も東についてはあまり詳しくなくて、印象が良くないかもしれないんだ。私も、怖かったから……」  遠慮がちに打ち明け、俯く錦。思えば、去年の正月は錦にとって従兄弟達との最後の宴となってしまった。滅多に部屋を出ない錦が、年に一度父母、姉、従兄弟達だけが集まる場には出てきていた。皆、笑顔で膳を頂き、楽を奏で、歌を詠み。錦も、其処では得意の筝を奏でたもの。又、『来年』もそうだと思っていたけれど。  錦の膝にある手を、一刀が優しく握る。 「辛い思いをさせたな」  静かな其の声に、錦は慌てて首を振った。 「私が決めた事だよ。其れに、とても幸せだから。私こそ、最初は一刀を傷付けた……御母上の為に頑張って来た事を、全て無駄にしたから……」  一刀は、錦の手を少し力を込め握る。 「思えば其れも俺の有り様へ嘆いた母が、強く望んだのやも知れぬ。去年迄は、本当に此処は鬱蒼としていた……あの一件は酷い騒ぎであったが、あれから皆の表情が変わって行ったのだ……憑物が落ちる様にな。お前が来てから、本当に全てが変わったのだ」  錦は微笑み、一刀へ身を寄せた。 「有り難う、一刀……此処に来て私は、本当に幸せです」
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