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錦が笑顔で訊ねると。
「凧上げ!」
先ず神楽が。
「貝覆い!」
そして、疾風。年かさの兄達の言葉に続かねばと焦り、伊吹は何を錦へ願うべきかを悩んだ。そして。
「だっこ!」
勢い良く出た言葉に、錦は笑って腕の中にいる伊吹の頭を撫でてやる。
「もうしてるよ、伊吹。一回づつ位なら、良いよね?一刀……ひぃっ!?」
ふと、先程より置いてけぼりであった一刀へ視線を向けた錦は、肩を跳ねた。何とも重苦しい空気を漂わせ、神楽達を睨むように見下ろす一刀。
「駄目だ」
答えは予想通りだが、幼子相手にそんなと錦。
「お、お正月だよ……お、お願い、少しだけ……」
錦が一刀の羽織を軽く掴み、其の顔を見上げる。暫く黙って錦の顔を見詰めていたが。
「……一回だぞ、お前ら」
一刀の言葉が聞こえた瞬間、神楽と疾風が錦の衣を引っ張り、早々に部屋より連れ出て行ってしまった。勿論、一刀の手を引く者はいない。
「本当に可愛くないな、彼奴らは……」
思わず漏らした、愚痴と舌打ち。酒でも持ってこさせるかと適当な者へ告げる為、私室を出た一刀の背後より声が掛かった。
「帝」
振り返った一刀の視界には何も映らない。が、ふと袴を引かれる感覚に下を見下ろすと。幼い姫が二人。従兄弟の娘達である。
「帝、遊びましょう」
一刀の袴を掴むのは、神楽より下の日和(ヒヨリ)。
「羽根突きです」
そう言って、羽子板を差し出したのは疾風と同じ年の子で皐月(サツキ)あった。
此れだから正月は。一刀はひきつった表情のまま、羽子板を受け取ってしまったのだった。
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