新年。

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「――沢山遊べたね。楽しかった」  伊吹を抱える錦の笑顔。両側には神楽と疾風が並んで後宮へ向かっていた。 「后妃様、今度母上がお会い出来る様にお願いしてくれるので、后妃様の好きなものを持って参ります。后妃様の好きなものって何ですか?」  神楽が笑顔で問う。錦も微笑み、首を横へ振った。 「何もいらないよ。其の代わり、元気な神楽を見たいな……風邪等、召さない様にね」  そんな会話を聞いていた疾風と伊吹が眉間へ皺を寄せた。 「神楽、狡いぞ。じゃあ、私も父上にお願いする!」 「わたしも!」  伊吹も兄に続く。錦は、更に笑顔になる。 「うん。そしたら、又皆で遊ぼうね」 「はい!」  今度は綺麗に三人揃った声。ふと、後宮の庭が騒がしい事に気が付き、足を早める錦と神楽、伊吹。其処へ辿り着くと、一刀の従兄弟達の姿。そして、後宮の庭にて羽子板を手に二人の姫、日和と皐月を相手に羽を突く一刀の姿。笑顔で羽を突き返す姫、巧みに打ち返している一刀の表情は相変わらず乏しくはあるが、時折和らいで見えるのだ。そして、頬に付けられた墨の後も何だかとても微笑ましくて。 「一刀……」  一刀の意外な姿に、少し驚きつつも見とれていた錦。そんな錦へ気が付いたのは、見物していた一刀の従兄弟で日和の父、蒼玄(ソウゲン)と皐月の父、樹(イツキ)。 「此れは后妃様」  厳かに頭を下げる蒼玄と樹へ、錦は頬笑む。 「どうか、楽になさって下さい。二人とも楽しそうですね」  錦の言葉に、徐ろに頭を上げて気恥ずかしそうに笑顔を浮かべる蒼玄と樹。其の視線の先には、娘が楽しそうに、笑顔で一刀へ羽を突き返している姿。
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