新年。

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 勇ましき娘の姿に、瞳を潤ませた子煩悩蒼玄と樹が更に前へ出た。 「后妃様のお顔を汚すわけには!此処は私が!さぁ、好きに致せ!一刀!」 「私も!后妃様と皐月の代わりならば!存分に書くが良い、一刀!」  よく分からぬ意気を出す親莫迦達へ。 「何なんだ、お前ら……何故俺が悪者扱いだ」  恐らく、一刀の言葉が此の場には正しいのだろうが、誰も肯定しない。場の空気に押された一刀は、不本意ながら渋々筆を置いたのだった。  『おもり』も終え、再び一刀の部屋へと戻って来た二人は少々疲労を抱えつつも、柔らかな笑顔であった。 「――一刀は従兄弟殿が沢山いて楽しそうだ……思ったんだけど、神楽と一刀って似てない……?」 「霞殿とは何も無いぞ」  空かさず、否定した一刀へ苦笑いを見せる錦。 「疑って無いよ」 「大体、俺は神楽と違い可愛げある幼子であったぞ」  一刀は言いながら火鉢の炭をつついているのだが、錦は目を丸くして。 「え、そうなんだ?」  此の反応に、一刀は眉を動かした。 「何だ、其の意外そうな顔は。母には夢見がちだ等とも言われる程繊細であったしな」 「そう、なんだ……?」  と、言いつつも一刀のそんな子供時代が想像出来ない。一体何を持って母、雛芥子は一刀へ夢見がちだ等と宣ったのか、と。 「まぁ、薄くても一応血縁だ。元々、霞殿ともよく似ていると言われていたしな」  神楽が己へ向ける子憎たらしい笑顔を思い浮かべつつ、溜め息混じりにそう話す一刀へ錦は少し食い気味に。 「そうだよね!私、初めて霞殿にお会いした時びっくりしたもの……とても御美しい方だなぁって……」  照れながらも、錦がそんな事を。一刀は少々面白くなかった様だ、片眉が僅かに動く。
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