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「ほう……?」
「そ、そんな顔しないでくれよ。私だって、一応男だし……へ、変な意味は無いさ……」
錦は一刀の手を取りつつ、弁解染みた台詞。一刀の表情は依然変わらないもので、錦は観念した様に。
「……い、一刀を女子にしたら、こんな雰囲気かなって……思ってはいた、けど……」
恥じらい、俯く錦の口より出た本音の言葉に、一刀は口の端を僅かに上げて笑む。
「成る程……其れは、面白い趣向だ」
「へ、変な意味じゃ無いって……!」
一刀は、錦を抱き寄せ其の額へ口付けを落とした。
「しかし、目移りは許せぬな」
「ち、違うったら……っ」
錦の顔は勿論、耳迄が熱くなる程。一刀に在らぬ誤解を招くと思い、つい口にしてしまった己だけの秘め事を後悔していてた。
「まぁ、理由が俺に似ているとの事……多目にみてやる。正月だしな」
そう言う一刀は、錦の不安を煽る様な笑顔に見えた。
「かっ、霞殿には内緒だよ、絶対……!」
「知られては困るのか」
言いつつ、表情は変わらぬ一刀。
「嫌だよっ!二度とお会いしないわけじゃ無いんだから!頼むよ?!」
「……其処迄必死になるのなら」
一刀の言葉に了解が示された、そう思い胸を撫で下ろした直後、浮いた錦の体。一刀の腕の中、声も無く目を丸くする錦。
「先程の御預け分も含め、存分に味わわせて貰おうか……其れ次第だな」
御帳の床へ向かう一刀。先程と同じ状況。
「お、お正月なんだよ……!」
「正月だからこそだろう――」
小さな来客も、持て成しに満足し帰って行った。漸く夫夫水入らずの甘い時。昨夜に続き、正月迄も。当然、逆らえるわけも無く一刀の愛に溺れてしまう錦。しかし、溺れているのはお互い様。
此の年も、后妃は帝の熱烈な寵愛を一身に受ける事だろう。
――完。
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