新年。

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 表情から、一刀の苛立ちは最高潮なのだろう事が分かる。霞は、楽しげに眺めていたがゆっくり両腕を神楽へ広げる仕草を見せた。 「いらっしゃい、神楽。后妃様へは、きちんと公式な拝謁を改めてお願いしてあげましょう」 「本当ですか?」  神楽は錦の衣を掴んだまま、母へと顔を向けた。霞は期待を込めた息子の顔へ、美しくも穏やかに微笑む。其の顔に、錦も思わず頬を染めてしまって。 「ええ。帝がとてもお忙しい日にね」  続いた霞の言葉は、一刀の神経を更に逆撫でした様だが、笑顔で納得した神楽は漸く錦の膝より離れ、霞の膝へ落ち着く様子。 「本当に強かな母子(おやこ)だ……敵わぬわ」  思わず溢さずにおれぬ嫌味。しかし、ふと霞の表情が神妙になった。 「帝、久遠の様子はどうですか?」  霞の表情と、出た話題に一刀も表情を変えて軽く頷く仕草を見せた。 「あぁ。後で行くつもりだ……婚姻が決まったのでな。昨日の夜、返事が届いた」  安堵した様な霞の表情。やはり、気に掛けていたのだろう。 「まぁ。では、西の帝がお許しになりましたのね」  頷く一刀。錦へ口添えを頼んでいたので断りはしないと踏んでいたが、流石にこんなに早く女帝が返事を寄越すとは思っていなかったのだ。改めて錦の存在が、女帝にとってどれ程大きなものかが理解できた。 「彼方も、思う処はあるだろうが……錦の口添えが何より大きい様だ」 「良い事ですわ。久遠にも、支えて下さる方が必要ですもの……后妃様、私からも御礼を。有り難う御座いまする」  霞は神楽を膝より降りる様に促し、錦へ拝して礼を述べた。霞は、一刀と久遠に漂っていた不穏な空気を常案じていた。其の中で一件の出来事を伝え聞いた際は、気を失ってしまった程で。重くのし掛かる様な空気に、不安と緊張感を覚えていたのは、霞だけではなく幼い頃より共に親しんで来た従兄弟達も同じであった筈。どちらも大切、どちらにも付く事は出来ない。力無いもどかしさ、只見守るしか出来ず。
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