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「御顔を上げて下され、霞殿。私も、東西の国交はもっと発展していって欲しいと思うておりまする……微力ではありますが、お役に立ちたい。勿論、友である久遠殿への助力は惜しみませぬ」
思いを受け止め、微笑む錦へ頭を上げた霞も微笑んだ。真、不思議な御方であると。東の御所がこんなに明るく見えたのは、錦が来てから。
「后妃様……貴方が此の東へ来て下さった事こそ、天の救いだったのですわ」
「え……?」
首を傾げた錦へ、変わらず微笑んでいる霞。再び、徐ろに錦へ拝する。そんな母の姿を見て、同じく小さな神楽も錦へ拝した。
「では、私供は此れにて」
「后妃様、又参ります!」
「うん。またおいで、神楽」
立ち上がった霞と神楽は賑やかな酒宴の席へと戻って行ったのだった。
新年の酒宴も御開きとなり、皇家の者達も御所を後にした。見送った一刀と錦は、揃って久遠が軟禁されている部屋へと向かった。錦は、久遠と顔を合わせるのはあの事件以来。少々表情を強張らせながらも前を歩く一刀へ続く。やがて、其の足が止まった部屋の前では、武官が二名控えていた。一刀と錦の姿に、改まり拝する。
「――久遠に会う」
「はっ」
返事の後で、襖がゆっくりと両側より開かれた。
「帝と、后妃様がお見えに御座います」
中の久遠へ告げる声。両側より拝する武官の間を抜い、足を進める一刀へ続く錦。其の部屋は、久遠の床以外何も無い畳の間であった。部屋の上を空け、拝する久遠の姿。一刀が上へ座すと、錦も隣へ腰を下ろした。
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