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今朝、そういう遣り取りを瀬田と交わしたので、もしも、直属の上司である石サバにデザイン部所属の同期の友人がいなければ、秋川は早退こそしないまでも、急いで帰宅をしなかっただろう。
出社した秋川の姿を見つけるなり、石サバは言うに事を欠いて、
「秋川君!?何で今日、来てるの!?」
と叫び声を上げた。
何でと言われても、社員なのだから出勤するだろう。普通は。と、至極当然に秋川が述べたところで、到底、石サバが納得しないのは火を見るよりも明らかだった。
だからと言って、だんまりを決め込んだ秋川に、
「上司命令!瀬田君の見送りに行きなさい!」
とバッサリ一刀両断するとまでは、秋川本人も思ってもみなかった。
石サバの勢いに釣られたのか、周りの同僚たちも小声で、
「午後から早退でもいいですよ?今、忙しくないですから」
「そうそう。仕事、立て込んでてないし」
「せっかくだから、見送ってくれば?」
と口ぐちに、秋川が瀬田を見送りに行く為の援護射撃をし始めた。
こうなるともう、意地でも半休を取りたくはない秋川だった。
しかし、全く気にならないわけではけして、ない。
これなら有給休暇を取っても同じだったな。と、心密かに秋川は苦笑し、せめて定時で上がれるようにと仕事に取り掛かった。
定時上がりだったらギリギリ、瀬田が空港へと出掛ける時間に間に合うはずだった。
瀬田には気を遣わせるだろうから、敢えて連絡をするつもりはなかった。
自宅へと帰ってみて、もう既に瀬田が出掛けていたらそれはそれでもう、仕方がない。
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