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その画集は限定品などではなかったが、実にしげしげと、それこそ穴が開く勢いで眺めていた瀬田を半ば呆れて半ば面白がって、杉生が譲ってくれたのものだった。
図画や説明文の余白の至る所に、杉生の解釈と思しき書き込みが残されている。
瀬田が懐かしそうに笑って、秋川にそれらを示し見せてくれた。
「自分勝手だったけど、すごく勉強熱心な人でした。ただ、それを他人に知られるのは嫌だったみたいで」
以前、秋川が画集を見せてもらった時には、それらは瀬田が書いたものばかりだと思っていた。
改めて見終えた秋川が返した画集を受け取り、瀬田は言った。
「心配してくれてありがとうございます。でも、うれしいことや楽しいことも、ちゃんとありましたから」
大丈夫です。と、声なき声で言う瀬田に嘘はないと思えて、秋川も口付けてくる瀬田に心から応えることが出来た。
もしも秋川が、画集を見るだけ見て、ありがとう。もう寝る、おやすみと自分の部屋に引き上げようとしても、瀬田はそれを許さなかっただろう。
秋川も又、瀬田がじゃあ、おやすみなさい。と自分を送り出しても、すんなりとは帰らなかっただろう。
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